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2019年4月

2019年4月11日 (木)

(2019年3月)2018年度最優秀卒論賞を授与

 同窓会では2010年定例総会の決定に基づき、卒業を迎える在学生に 毎年「奨学金」(「最優秀卒論賞」)を授与しており、2018年度(第9回目)も 授与させて頂きました。
この「奨学金」の制度が今後も在学生の皆さんの励みとなってくれることを願っています。

(第67期 新卒業生の皆さん)
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卒業論文審査について 土屋和代(教養学部准教授)

 アメリカ科では英語による卒業論文は必修であり、また学生にとっては駒場での勉学の集大成でもあります。今年度は1月23日に教員、4年生および下級生が参加して、口述審査会が行われました。審査の結果、特に優秀な論文1本に最優秀卒論賞を授与することになり、同窓会のご厚意により昨年に引き続いて奨学金も授与することができました。卒業生の皆様のご配慮に、改めて感謝申し上げます。
 以下は最優秀卒論賞を受賞した山﨑香織さんによるお礼の言葉と論文要旨です。
山﨑 香織(やまざき かおり)
 この度は最優秀論文賞をいただき、大変光栄に思っております。アメリカ科同窓会のみなさま、ご指導くださった先生方に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。大学院進学後もより一層勉学に勤しんでまいりたいと思っております。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
Jimmy Carter and Human Rights Diplomacy: A Reevaluation
(カーター大統領と人権外交―その再評価)

 ジミー・カーターは1977年から1981年という冷戦下かつ時代の転換期にアメリカ合衆国の大統領を務め、人権外交を提唱した人物である。本論文は、一期でホワイトハウスを去ったカーター大統領が4年間で残した「遺産」を探り、「失敗」と言われたカーター政権下での人権外交を再評価することを試みたものである。

 この論文では、カーター大統領の人権外交を再評価するにあたり、カーター政権下で人権外交がどのように行われ、いかなる結果をもたらしたのか、ソ連、韓国、イラン、ニカラグアに例を絞ってそれぞれ検証している。カーターの人権外交は特にこの4カ国との間において重大な「失敗」を犯したとみなされている。しかし、実際には国務長官を務めたサイラス・ヴァンスと国家安全保障担当大統領補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキーという二人の大統領アドバイザー間の意見対立や、議会内の対立による政策決定の遅れに「失敗」の原因があり、人権外交そのものを単に「失敗」ととらえることは妥当ではない。

 加えて、カーターは在任中、人権外交を通して各国の人権問題に目をむけ、実際に人権侵害の改善に寄与している他、パナマ運河のパナマへの返還やエジプト・イスラエル平和条約締結の仲裁を成功させている。確かに人権外交には様々な限界があり、アメリカ全体の国益を考慮し、議会や国民からの支持を得なければならないアメリカ大統領という立場から人権尊重を最優先させることは困難であった。しかし、カーターの一貫した人権尊重への熱意に基づく人権外交は、短期的な国益だけにとらわれずに長期的な国益をも念頭に置き、倫理的規範に目を向けた画期的かつ国際協調を志向する政策であったと肯定的に再評価を下すことが出来よう。

 このようにカーターの人権外交を再検討することは、今日国際社会が直面している課題を解決する方法を模索することにも通じると考える。昨今、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ、世界各地で自国優先主義を国民が支持する動きが強まっており、同時にそのリスクについての議論も盛んになっている。冷戦下において、戦略的な利益と一見相反するかのように見える人権保護を優先したカーター政権は、短期的な国益を重視する国民の支持を得られなかった。しかし、カーターが試みた人権外交は国際協調を志向する点からも長期的に見ればアメリカの国益を重視する政策であった。カーターの人権尊重を重んじる精神と人権外交の理念は大きな可能性を持っており、今もその可能性を秘めていると考える。

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